スクリュープレスの構造と機能
最も基本的な摩擦駆動方式のフリクションスクリュープレスにて解説するが、駆動方式の相違のみでフライホイールが回転する所から以降の動作は、サーボ駆動機を除きほとんど相違がない。
(サーボ駆動機は、スライド降下中に減速が出来、一行程終了時前にモータ減速しながらスタート位置でモータにより停止する)
1 構造・機能
通常フレームのクラウン部に固定されたメネジがあり、オネジがこれに組み込まれている。オネジの最上部にはかなり高容量のフライホイールが強固に締結され、最下端にはベアリング等で接続されたスライドがある。この状態が人力式スクリュープレスで、フライホイールを正転させればスライドが下降し、逆転させればスライドは上昇する。スライドは上型と下型がぶつかるまで下降し、もし型が無ければフライホイールはフレームクラウン部上面に衝突する。一方スライドはやはりフレームクラウン部の下面に衝突するまで上昇する。機構的下死点と上死点のないスクリュープレスではこの構造は総ての機種に共通し、取り扱いを誤ると機械を破損する重大な事故にもなる注意すべき要素である。フライホイール両側では、二枚のフリクションホイールがシャフトと軸受に支持され、常にモーターにより一方向に回転している。この時、フリクションホイールにはかなりの回転エネルギーが蓄積されている。フライホイールには革製のクラッチライニングが巻きつけられており、通常左のフリクションディスクがフライホイールに接触すればフライホイールは時計回りに回転し、右のフリクションディスクが接触すれば逆転する。フライホイールが正逆転すればネジ機構によりスライドも上下する。
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基本的なフリクションスクリュープレス
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スクリュープレスの各部の名称
2 一行程の作動説明
一行程は以下のプロセスで実行される。スライドとフライホイールは上限にある。
起動スイッチ・ON で左のフリクションディスクがフライホイールに接触する。フリクションディスク内周部の周速の遅い部分に接触したフライホイールは正転を始め、スクリュー機構により徐々に周速の速い外周部に向けて加速移動する。
スライドのストロークエンド付近の加圧直前にフライホイールの回転速度は最大に達し、この最大フライホイールエネルギーが加圧材料に対し瞬間的な衝撃加圧を行なう。この時フライホイールエネルギーは総て消費され、フライホイールは瞬間停止する。この直後、電気信号により動作が切り替わり、右のフリクションディスクがフライホイールに接触してフライホイールは逆転し、スライドは上昇する。設定された上限位置でブレーキがかかり一行程を終了する。
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基本的なフリクションスクリュープレス
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スクリュープレスの各部の名称
3 機械の構成
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A.フレーム
大きなフライホイールエネルギーはネジ機構を介してすべてフレームで吸収されなければならない場合もあり、ストレートサイド型が一般的。小型・中型では一体フレームで、大型になると2~4分割のタイロッド締めになる。加圧時フライホイールの回転方向に大きな慣性モーメントが掛り、ねじり応力が発生する事が他の機械と大きく異なる。
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B.スライド
他のプレスと異なり、加圧時スクリュー回転方向のねじりを受けスライドは同じ方向に回される。この為4点支持以上のロングスライド形式が多い。
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C.オネジ
リードスクリュー、スピンドルスクリューなどと呼ばれる。衝撃的にねじりと圧縮応力を受けるので熱処理を施したクロムモリブデン鋼や、ニッケルクロムモリブデン鋼が用いられる。ネジ角度は一般にセルフロックしない15度以上にとられるので、谷幅の切削加工の都合上、2~4条の台形または角の多条ネジとなる。セルフロックの必要な万力などではネジ角度は小さく取られる。
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D.メネジ
ガイドスクリュー、スピンドルナット等と呼ばれる。耐摩耗性とじん性を求められ、高力黄銅やアルミ青銅鋳物が使用される。オネジが上下する構造ではフレームに、そうでない場合はスライドに取り付けられる。(ダブルスクリュー方式では両方に取付)
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E.フライホイールと
クラッチベルト摩擦駆動型では外周部にクラッチベルトが取り付けられる。線接触であり柔軟性と耐熱性が求められ、現在一般的には天然皮革製品が使用される。稀にノンアスライニングが使用されているが、割れて周囲に飛散する危険があり、この周囲が完全に覆われていない限り使用するべきでない。 過負荷時の過剰エネルギーを放出するスリップ装置(トルクリミッター)を取り付ける場合もあるが、フレームに取り付けた歪ゲージからの電気信号にて過負荷停止する方式の信頼性が高くなった為メリットが少なくなったと言える。
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F.フリクションディスク
摩擦板、フリクションホイールとも呼ばれる。基本的には常に回転エネルギーを貯えている一次側フライホイールである。エネルギーの蓄積、摩擦伝達で発生する熱の放散、駆動時の クラッチの三つの役割を持つ。サーボモータ駆動などの直動形式ではこのホイールは無い。
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G.ホイールシャフト
大型機ではフリクションホイールの重量が重くなり、2枚のホイールが同時に左右に動く事はラッチシリンダーの容量が大きくなり、また慣性が付きすぎライニングに接触する際衝撃力が出てしまうので、左右が別々に動く方式を採る。 中・小型機ではシャフトと2枚のホイールを固定して同時に動かす方式が多い。
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H.ブレーキ
フライホイール外周部に対するディスクブレーキかシューブレーキが多い。フライホイールを毎行程極めて短時間に完全に停止させなければならない事が、他の機械プレスとは大きく異なり、ブレーキの能力は大きい。 サーボモータ駆動方式ではモータ自体がブレーキの役割を持ち、減速停止を行なうが機械式ブレーキも停電時の非常用に搭載する。
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I.レバー・ハンドル機構
ホイールシャフトを左右に移動させ、スライドを上下する為の操作者用の機構。特殊用途の小型機を除きほとんど採用されていない。
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J.作動シリンダー
ホイールシャフトを左右に移動させる為のシリンダーで、応答性が良い事から油圧より空圧の方が多い。レバー付きの機械ではレバーの途中に一個のシリンダーが取り付けられ、そうでない場合はシャフト両端に二個取り付けられる。
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K.スライドバランサー
スライドの重量を平衡させると共に、長期使用後問題となるネジ部のギャップを消去する利便 もある。