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世相

平成14年 正月

  • 2002年01月

地獄の釜
 二十一世紀にはいったが、新世紀の明るい希望とは裏腹にまさに地獄の釜の蓋が開いた感がある。
  始末をつける必要のない責任のない評論家の、これまたいい加減な予測推測にもいい加減に付き合いきれなくなった昨今の厳しい状況だが、予測の域を出て確実に断言できる事がいくつかある。企業の倒産や廃業の増加と失業者の増加もその一つだ。手堅い仕事をしていた顧客が、昨年何件も廃業した。手堅かったが故に、他人様にご迷惑をかける前に自主的におやめになったと言う事だろう。「元気を出して、しばしこらえて、頑張って!」とはげまされても、「もう米櫃の底が見え始めてます」といった企業がどんどん増えているのが現況だ。いくら励ましを受けても尻をたたかれても、調子の良い事を言われても、「大本営陸海軍部発表」としか聞こえなくなった。そして「行け満蒙開拓団」ときている。人件費の大差から産業の多くが日本を見限り、どんどん中国へ移動している。家電どころかオートバイも輸入らしい。次は四輪の番だ。出て行ったはいいが、もしかするといずれ又、先に経験した様に良くて身一つで戻ってくる事になるのであろうか。歴史は繰り返すと言う言葉がある。

ご破算
  上杉鷹山の改革を書いた本がある。上杉米沢藩は関が原の合戦で西側についたが為会津百二十万石から米沢三十万石に減封され、その際家臣の人員整理をせずそっくり召抱えを続けた。歳入が四分の一に減少したわけだから当然の帰結として赤字と借金の増加となった。謙信以来の名家でもあり、出費を減らそうにも誰もそれが出来ない。北に位置し冷夏の影響を受けやすい米沢では税収(年貢米)に変動を受けやすい。赤字の対処療法として採った年貢米の増加は農民を疲弊させ、他領への逃散を招き税収の落ち込みに輪をかけた。これで完全に「餓え過ぎ家」となったわけだが、どっかで聞いた事のある話ではなかっただろうか?
  売上が減れば赤字を回避する為に支出を減らす。社員を整理したり給与支給額を減額して人件費を減らす。不採算事業を辞める。不要資産を売却する。倒産という紛れもない現実があるから必死に対処する。税収の落ち込みが続く現在、国家予算も当然その様にすべきである事が誰にでも明白であるはずなのに、推進しなければならない構造改革は、今の政治家の言動を見る限り多分出来ないだろう。民間企業では賞与も出ず、給与も遅配があるというのに、不公平極まりない。
  なんでこんな事が許されるのか!天を仰ぎ、地を叩き怒号しても、官僚・政治家には届かない。船が傾き、ひたひたと足元まで海水が忍び寄って来ているというのに、きっと彼らは体が水に浮くまで足元のショバ争いを続ける気なのだろう。
  過去庶民の資産は何度となくご破算となっている。幕末、藩札の類はただの紙切れになったし、先の戦後も貨幣の価値が2桁も変わってしまって資産は召し上げられた。赤字対処の国債の乱発は、いずれまた借金の棒引きという、国民の資産を召し上げる事によって清算されるのであろう。

ヨーロッパの機械ショー
  九月、あのテロ事件の直後にドイツ・ハノーバーで開催された欧州最大の機械見本市EMOショーを見てきた。自動車に限っては昨年のドイツは非常な活況であった様で、生産台数も遠く日本には及ばずとも五百万台を越え、記録を作った様だ。鍛造用プレスに関してはあまり調子良くなさそうで、あるドイツのメーカーはそれぞれ特色のあるプレス関連装置メーカーを六~七社買収、そしてここで三千人以上いる社員の八割近くもリストラする計画があるらしい。物が売れないのでグループ化して人員を削ぎ落とし、それでもなお食えないので整理をする状況らしい。懇意なイタリアのプレスメーカーの社長は、アイデアを出して新規開発をしても売れ行きがパッタリだと、通常安価な機械で攻勢をかけ、お調子者の多いイタリア勢も珍しく弱音を吐いていたのが印象的だった。ヨーロッパも厳しくなって来ている様に感じられた。

アジア
  アメリカの景気動向の影響を受けるのでアジア諸国の現状も厳しいものがある。しかし浮き沈みはあるだろうが、物すべて満ち足りているのではないから国内需要は潜在的に存在する。安価な中国製品がその需要をキャッチアップしつつあるのも現実だ。たとえば二輪車は、日本デザイン・東南アジアの地元製の物が安価な中国製に押されている。ミャンマーでは国境を越えて中国製品が入ってくるので、単純簡単な基礎工業の発展も図れないという深刻な問題も抱えている。新規需要の無くなった日本から出て、アジア諸国での商売にウエイトを高めなければ生き残りを図れない日本だが、大国中国と商才に長けたチャイニーズとの関わりは避けて通れない。負けてなるものか。
  大きな話題として取り上げられないが、インドもまた動いている。弊社も二輪の部品製造用としてインド向けに注残があるが、決まるのも早かった。桁違いの財閥があるし、インド人技術者は優秀だし良く働く。労働省のおかしな政策ですっかりふやけてしまった日本人労働者とは対象的だ。


新規需要
  たとえば、太陽電池だけで動く自動車とか、高速道路での自動運転システム、癒しロボット・介護ロボット・ガードマンロボット・愛人ロボット等各種ロボット、そのほか色々の新技術が実現化するのもこの十年とか二十年の間の問題になって来つつある。しかしそれまでの間に画期的な新需要を惹起する何かがあるかと言えば、疑問符が付く。
  高度成長期にあったここ五十年の間、新製品が次々に出現し生活を豊にし、産業も拡大した。あらゆる品々が行き渡り高度成長が終わりつつある現在の日本で、成長期にアメーバの如く増えつづけた会社がどんどんと消滅しているのは自然の成り行きでもある。栄枯盛衰の自然の摂理だ。当面画期的な新規需要が望めそうもないという前提からそれぞれの企業は生き残りを図らなければならない。
 スーパーカミオカンデの実験装置のメンテナンスの際、一万一千個程あるセンサーの約半分が壊れてしまった。なんでもその一個が三十万円以上もするという事で、センサーの総数だけでも三十三億円以上もするのが、なんとそれが静岡県の某H社だけでしか製造できないと言う事で、一方ではとんだ不幸ではあったが、他方ではビッグビジネスがまたまた転がり込んだわけで、下世話な弊員としては思わず羨望してしまったところだ。そこに至るには多額の開発費を要したであろうから、三十万円が安いのか高いのか簡単に決めてはいけないのだろうが、しかし今後の企業の生き残る道の一つはオンリーワンであるべきである事は言うまでも無い。高度技術・多品種少量・高精度・工程削減・省エネ・高寿命等が今後の日本企業の開発テーマになり、それをもっての海外展開の二本柱で万全を期すべきであると思っている。やはり海の外へ出ないといけない。

ハードランディング
 現在の政治家のやり様を見ていると、ソフトランディングはもう望むべくもなく、否応無くハードランディングせざるを得ない状況となりつつある様だ。多くの民間企業にはもう余力がわずかしか残っていない。しかし最後まで希望は捨てないで!地獄の釜の中で運命の女神が微笑んでいるかも知れない。今年一年の御健闘を祈ります。

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