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世相

平成18年 正月

  • 2006年01月

「亀の時代?」
ドッグイヤーと言う言葉が流行した時がある。大方の産業では今もそれはそれなりに正しいだろう。進歩変革は日を追って早くなり、昔十年かかっていたものが最近では半分の五年や、早い場合は一年で終わってしまう。日進月歩は人間の寿命の速さではなく、その七分の一の犬の年をとるレベルで早く変わってしまうというわけだ。尻にいつも火がついて、年中借金取りに追いかけられている様な感じでドッグイヤーの世界に身を置くと誠に居心地が悪いのである。
さて、私の会社は悔しいかな、しがない町場の中小企業であるが故に、出来の悪い子弟にも入社してもらい(正直言うとその様な子しか来ない)、教育をやり直しながらいっぱしの職人に育て上げる努力をしている。昨今の様に国内向けより輸出が増加してくると、英語力も必要となり、英語教育も社内でする必要にせまられて、英会話教室も無償で提供している。いずれにしても、秀才揃いというわけには行かないので効果は遅々として進まない。しかしここは学校では無く、給料を稼ぐ為の手段の場であるという大きな違いがある。換言すればプロの世界だ。こちらも必死であるし、幸い出来の悪い子達も必死で努力する様が伝わってくるのが嬉しい。ウサギと亀の競争では亀が勝った。私は彼等に常々亀で良いと言っている。決して急ぐ必要は無い。人生は長い。亀のたゆまない毎日毎日の一歩一歩の努力が必要だ。亀はいつかウサギを追い越し競争に勝利を収める。だから亀でいいじゃないか。
指で金属材料の表面をなで、削った部分の段差が何ミクロン位あるかだとか、表面粗さがどの程度かとか、これだけ急激な切削をすると熱により材料の直径が何ミクロン大きくなるはずだから、この寸法で仕上げておけば冷えれば目指す寸法に収まるとか、この角部の指触りの仕上げではパッキンの寿命に影響するだとか、、、今日本で最も必要とされつつある職人の技・勘は、ウサギの速さでは習得できない。十年やそこらは簡単にかかるまさに亀の速さの領域だ。
書かれたマニュアルでやる仕事は誰にでも出来る様にと仕組まれた方法であるから、発展途上国にいずれ流れて行くのは自明の理である。これからの日本の行くべき道(それしか生き残れる道がない)はまさにマニュアルに書く事のできない職人芸の領域の仕事だ。これは時間がかかる。亀の速度の世界だ。だから私は出来のあまり良くない若い子達に亀になれと言っている。これからの日本は、こと加工技術の面では亀の速さの時代で良いのではないかと思っている。

「詐欺師」
 常々、日本の英語教師(特に中学・高校・大学の一般教養の)は詐欺師かペテン師ではないかと思っている。親が子を学校に通わせるのは教育を受けてもらい、学力をつけてもらうのが第一目的であり、だから学費も払って学校側と契約をするのである。大方の両親の子供への英語教育の希望は、「多少なりとも喋れる様になって欲しい」である。数学とか、物理とか、化学等の勉強の希望と比べると誠に簡単明瞭で、押しなべて均一である。
しかしながら、英語が多少片言ながらも喋れて学校を卒業する子供はごくごく少数であるのは大方の人が認めるところである。言語、特に外国語を学習する大きな目的は、まず第一に他人(外国人)とのコミュニケーションが出来るための手段の習得であって、今の英語教育は結果からしてその目的に合致していない。相変わらず大学の入学試験問題では、不必要としか言えない難解な問題を出している。それが判らないと大学合格が出来ないので受験勉強は勢い日常社会では不要なへんてこな英語ばかり暗記させられる羽目になる。
高等学校の英語教育はこの余波をくらい、これまた難解な英語ばかり教えている。中学のスタートから学習に出遅れた出来の悪い子達は中学・高校の6年間さっぱり判らない英語の時間を無為に過ごす事になる。普通の子も途中で難解な学習にだんだんついて行けなくなり、同じ道をたどる。結局大方の生徒は英語が全然喋れない状態で、英語が大嫌いになって卒業する事になる。
更に悪い事に、この過程において、学生達の自信喪失という悲劇的な結末さえもたらしている。おれは、何をやっても駄目なんだという自信喪失である。英語に限らず、現在の多くの中学・高校は教育の付与の場では無く、自信喪失付与の場となってしまっている。やれば出来るという自信を与えていない。教師ももう投げやりだ。
弊社は中小企業であるが故に落ちこぼれ卒業生も多数採用している実績があるが、仕事でも英語学習でも簡単な基礎からじっくり時間をかけてやらせると実に目が生き生きとしてくるのだ。自分にも出来るという自信がつくからである。
我々商売の世界では、顧客満足度という言葉があるが、学校の英語教育は百%不満足。これは通常、詐欺とかペテンとか言うのではないか。

「武器輸出」
日本には武器輸出三原則という立派?な法律がある。つまり、一、共産国向けには武器の輸出を認めない。二、国連決議で武器の輸出が禁じられている国には武器を輸出しない。
三、国際紛争の当事国又はその恐れのある国には武器を輸出しない。というもので、武器の輸出についてはそれによって国際紛争を助長する事を回避するため、さらにつぎの方針によりその輸出を促進しないとし、一、三原則対象地域には武器の輸出を認めない。二、三原則対象地域外の国に対しても憲法の精神にのっとり武器の輸出を自粛する。三、武器製造関連設備の輸出については、武器に準じて取り扱うものとする。これらの六点が我が日本国の武器輸出政策の統一見解となっているのである。
弊社の何の変哲も特殊性のないプレスでも、外国の客先が鉄砲やジェット戦闘機のエンジンの部品を作るのにでも使用するのであれば輸出は禁止である。大方の欧米諸国にはこの様な縛りは全然無いので、商売のチャンスを失し、割りに合わないとも感じるが、アフリカやアジア中近東諸国に埋められた地雷で、いたいけな子供達が死亡負傷している事実、民族対民族の大量の殺戮等の報道を見るにつけ、ここで使用されている武器は大方が先進諸国から輸入された物であるのであり、やはり武器に関わる製品輸出には関わらない方が良いと感じているのではあるが、武器輸出の主要国が国連安保理の常任理事国のメンバーである事には不条理を感じるのである。

「アメリカの横暴?」
アメリカでコピーをとると、A4サイズが変形であるのに気付く。天地が少し短く、左右が少し大きい。横文字の場合、一行の語数が多く、行数はその代わり少ない方が一枚の紙に文章が多く入れられるからであろう。合理的ではある。だけど通常のA4用紙とファイルを一緒にすると、アメリカ判だけ横に出っ張ってしまって見だしが付けづらい。
アメリカのファイルの穴は三穴である。真ん中に一箇所と天地に各一箇所である。バランスが非常に良いのは認める。ただ日本を含め、他国のパンチャー(穴開け器)は二穴のピッチが違うので使えない。ヨーロッパは四穴が多いが、各穴のピッチは日本の二穴ピッチと同じであるので、殆どの国の穴あけ器で上下二回穴をあければ済む。アメリカ以外の国のA4サイズは概ね同じ寸法である。
ISO(国際標準化機構)の推進にも関わらず、アメリカでは依然ポンド・ヤードとフィート・マイルであって、一向にメートル式にする気配も無い。いや、絶対に変えないだろう。イギリスもそうだ。どうだろうか、これを理屈をつけたごり押しと見るべきだろうか? 協調性の無さと見るべきだろうか?あるいは横暴と見るべきだろうか? アラビア諸国からの見方はかなり厳しいだろう。

「好感パキスタン」
初めての訪問地パキスタンの印象は非常に良いの一言に尽きる。
昨年の十一月にパキスタンの元首都であるカラチで開催された、マシンツールパキスタンという機械展示会に出展した(写真)。


pakistan01以前誰かから、海外商圏開拓地の選択理由を聞かれた事があったが、先ず最初に返答したのが人口である。主に自動車部品生産用機械装置産業である我が社は、まずある程度の人口があるところでないと商売は成り立たない。工業規模が将来ある程度見込めなければならない。
パキスタンの人口は日本よりやや多い一億五千万人、国土面積は日本の約二倍。一人あたりのGDP七百三十六ドル、実質経済成長率8・4%、主要産業は、農業と綿工業である。
現在日系企業数は三十社あまり、在留邦人数も千人を下回り、経済交流はいまのところ統計上は、そう活発では無さそうであるが、国内を走る自動車の八割以上が日本車という現実に、到着後先ず驚かされるのである。正式国名が、パキスタン回教共和国と示すがごとく、国教としておかれているイスラム教はかなり厳格であり、例えば一般に酒の販売もされていないし、公共の場での飲酒は許されていない。日本人としてはすこしとっつきづらいだろう。
パキスタン政府による経済改革と国際支援が功を奏して最近はパキスタンの経済事情は大幅に改善されつつあるが、先の北部の大地震がこの国の経済の屋台骨を文字通り揺るがしている事は記憶に新しい。弊社として(というか個人的な直感で)はやはり将来のマーケットとしては興味のある国であり、展示会出展の決断をしたわけである。

私が小学生の時、社会の勉強の時間には、パキスタンは東パキスタンと西パキスタンに分かれていて、イギリスの植民地支配から独立したインド、セイロン(当時のスリランカの国名)パキスタンは、宗教上致し方なくその様に分離したわけであるが(もちろんインド北方カシミール地方の現在の紛争の種はこの頃から尾をひいているのである)、東がその後にバングラディシュとなって更に分離し現在に至っており、そんな話を今の若い社員に話すと、へー、パキスタンがインドを挟んで左右に二箇所もあったんですか?と目をまん丸にするのであるが、私も結構年をとってしまっているのかもしれない。
インドの紙幣にはガンジーが印刷されているが、ここパキスタンでは、イギリスの植民地から独立を獲得したモハンマド、アリ、ジナーが印刷されている。各所でこの人の肖像がが掲げられているので、国民の高い尊敬がはらわれているのであろう。
酒を飲まない代わりに喫煙者が多い。これはインドと反対だ。道路事情はかなり良い。人口が少ない分繁華街での人ごみは少なく、インドではどこでも圧倒される雑然さが無いのが助かる。新市街は結構モダンである。金持ちのスケールもインドと比較するとすこしサイズダウンするのであろうか、私などのレベルを招待してくれる連中が居るのである。それでも当方からすると圧倒的高貴な豪邸である。ライフルを持ったガードマンが常時警備し、そこらへんの高級ホテル並みのプール、食卓がいくつも並ぶレセプションルーム、さらに自宅のバールームには、ビールもウィスキーもフランスのワインもずらりとそろっており、何が禁酒の国だと喜んだ次第。ただ、我々が日本で購入する価格の二倍もかけてブラックマーケットで調達しているとの事。もちろんそれなりに持っているブツもあるので、それをさらに増やす為の投資意欲は旺盛である。この国の近代化の大きな原動力になっているのは間違いない。弊社もお役に立ちたい。ギブアンドテイク、共存共栄である。

展示会は日本勢としては弊社だけだった。産業大臣の小間訪問も受け、励ましを受けた(写真)。それ
pakistan02にしても不本意ながら来訪者のほぼ全員が台湾企業か?と聞くのである。確かに台湾メーカーの展示は多かったが、現状では割安な台湾製機械装置の受けの方が良さそうと感じた。
工場も数社訪問したが、まだまだこれからである。博物館に入れたくなる様な機械も何台か見た。まだ当分ボランティアかな?と感じた次第である。数年後に期待をかけよう。おそらく又足しげく通う事になりそうだ。

「コルカタ・アンバサダー」
最近、ニューデリーではインド国産車アンバサダーを見かける事がめっきり少なくなった。
行く度に日本・韓国・ヨーロッパ・アメリカ車の数量が増加している。アンバサダーは三十年以上前からほぼデザインが変わる事なく、現在でも製造が続行しているインドの国産車である。ただ、このアンバサダーを生産しているヒンドスタンモーターズの工場があるコルカタ(カルカッタから名称を変更)市内に入ると車は圧倒的多数のアンバサダーである。タクシーは殆どが黄色く塗ったアンバサダーである。タクシー以外の一般車は暑いがためか、白が多い。いずれにしても時代を間違えてしまったかの様な光景である。長い社会主義体制で、売り手一方でモデルチェンジの必要性の無かったアンバサダーも、ここ数年の海外からのモダンな車の洪水に劣勢を余儀なくされている。製造工場訪問をしたが、生産設備も古いし、工場も古い。また組合活動がかなり激しく見え、これも近代化には問題だろうと見た。工場訪問の帰路どしゃぶりの大雨になって排水の悪い道路はたちまちの内に、所々ひざまで浸かる冠水になった。二輪車や車高の低い外国産の車はたちまちの内にエンストである。ところがばねが強く車高の高いアンバサダーはここぞ面目躍如。やはりまだインドの国民車だと納得が出来た次第。

「ベトナム注目株」
弊社のベトナムとの関わりは早十数年となった。ここ数年泣かず飛ばずであったベトナムの景気が最近急上昇している。一つは中国への一方集中からのシフトである。これが最も大きいだろう。もう一つはベトナム自体の発展結果であろう。人口はインドシナ半島では一番多く、民族的には、実際は中国人の係累である。商売熱心、学習熱心、勤勉、手先が器用ときているから時期がくれば大きく発展しないはずが無い。現在道路などのインフラ整備の真っ最中で雲霞のごとき二輪車の大群とその間に挟まって動く自動車の交通渋滞はそれぞれの相乗効果でひどいの一言であるが、一段落して落ち着きさえすれば経済損失も少なくなり、発展に拍車をかける事であろう。鍛造も一般工具の精度のいらない鍛造品から二輪車部品に変わってきた。真鍮鍛造品の需要も上がってきている。全ては可処分所得の増大がもたらす結果だが、かなり良いパターンの経済サイクルが動き始めているのは事実の様だ。

「景気絶好調?」
昨年秋、弊社としては始めてドイツ・ハノーバーで開催されたヨーロッパ最大の機械見本市「EMOショー」に出展した。最近イギリスや、フランス、東欧のチェコなどに輸出実績が出来、ヨーロッパ市場もまんざらではなさそうだと感じた事と、いずれ近々東ヨーロッパでの市場ニーズが上昇するはずだという事、更にその先にロシアが控えているという期待からの市場調査も含めて出展を決意した。
EMOショーは二年に一回、ドイツ・ハノーバーとイタリア・ミラノの持ち回りで開催される(フランス・パリも加わっていたが、前回を最後に辞退)。アメリカのシカゴショー、日本のJIMTOFと並ぶ世界の三大機械見本市である。会期は非常に長く八日間(それでも過去の十二日間からかなり短くなった)、最先端の機械技術の発表の場であるので、世界各国から関連企業・バイヤーが参集する。今回の特徴であるが、工作機械、特にCNC切削機械の複合化である。外周切削・面切削・小穴あけ・タップ加工など全部を一台の一回のチャッキングで済ませてしまうという、過去多数の機械でやっていた仕事の一台での集約化である。これは、まず多数あった工場の設備を集約化し(数台あった機械が一台にまとまり)、数台に必要であった場所や段取り、作業者を削減出来るという大きな効果があるので、既存設備からの更新が大きく期待できるはずだ。この機械を発表している最先鋒が日本の工作機械メーカーである事は言うまでもない。翻って見れば、失われた十年と揶揄された期間に培った絶え間ない技術革新の大きな果実でもある。現在日本の工作機械メーカーは旺盛な自動車産業の活況の後押しもあって、過去最高の記録を続伸している。
他方、弊社の関わるプレス機械であるが、ヨーロッパメーカーの不振が気にかかる。出展面積は、過去から比べ半分近くになってしまった。出展しない会社、出展しても面積を減らした会社、企業買収により二から数社が一社になってしまった会社、EMOの総合機械見本市から、板金加工展等の専門見本市に出展を変えた等がその理由と見れた。プレス機械は工作機械と違って設備更新に関わる極端に大きなメリットが少なく、ヨーロッパの自動車産業の不振とも相まってこの様な結果になったと推測した。
反面、旺盛な自動車産業の牽引により日本のプレス機械は絶好調だ。この十年に培ったサーボ駆動プレスの開発も功を奏している。サーボプレスは、現状日本の独断場である。会社によっては納期二年と、展示会に持ってくる機械も無い様な状況であるらしい。日本の機械産業は絶好況!ひたすら希望を失わない地道な努力の結果と見ている。
新しい平成十八年が始まった。十八という地は漢字で書くと末広がりで誠に良い字体である。今年も貴社の御検討をお祈り申しあげます。

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