世相
平成17年 夏
- 2005年08月
「李下に冠を正さず」
平成17年4月、騒乱!の最中の北京で10日間滞在していた。中国国際工作機械見本市出展の為の出張である。仲良くする努力をしながら商売も相応にさせてもらっているのだが、誠に暗い気持ちだった。騒動を引き起こした言い分の真っ先に首相の靖国神社参拝がある。日本は先の大戦で中国や韓国に侵略行為をし「大変なご迷惑をかけた」として歴代の首相が公式に何度も詫びを表明している。右を向いてこの様に詫びながら、左を向いてはその戦争を導いた人が合祀されている神社に参拝しているのではやはりどうしても、謝罪された側としてはいったいどっちが本音なんだと言われても仕方あるまい。
死んでしまえば誰も平等となり、過去の贖罪も償われるというのであれば、小泉首相も今戦争を起こしても死んでしまえば罪を課せられない事になる。それは数世紀も経てば評価も変わろうが、つい最近おこした戦争で生き証人がまだ多数生存している。言い訳に無理がないだろうか?
存亡に立つ日本経済と日本の存続に、まさに文字通り命をかけて多くの企業人が海外で活躍している。はっきり言って諸外国の誤解を招く日本の政治家の首尾一貫しない中途半端な言動は民間企業人としては、はた迷惑なのである。
戦後六十年を経て、東京大空襲を筆頭に先の大戦での民間の被災追悼が最近盛んに実施されているが、なぜ日本が戦争を起こしてしまったのか、なぜ日本の多くの都市が空襲を受けたのか、なぜ原爆が落とされたのか、できればテレビの報道機関がもっと徹底的にこの部分の歴史教育、特に戦争の起承転結の報道をしてもらいたい。
パレスチナとイスラエルの紛争を見てもわかる通り、あそこまで問題がこじれてしまうと最早解決の糸口さえ見出せず、殺戮の応酬は悲惨としか言いようが無い。あそこまで行かない内に相互多少の譲歩をして共存の道を見出すべきである。東アジア諸国は幸いにも同じ仏教が主体であり、宗教上のいがみ合いが無い。他の国家間・民族間の宗教上の紛争を見ればわかる通り、宗教の違いからの紛争は到底解決困難である事が良くわかる。我々はその面からすると誠に幸運である事を強く理解すべきだ。解決の糸口は見出す事が出来ると切に期待したいし、政治家の努力を望みたい。
いずれにしても靖国参拝には諸外国からの誤解が生じる。李下に冠を正さず、紛らわしい事は、不本意であってもしない方が良い。
「駆け引き」
ついでに先の中国の騒動だが、一部の政治家があんな所(中国は)ほおっておけ、と言っているのは問題だ。我々民間企業は生き残りをかけ、自己・会社・国の為に大きな犠牲をも省みずに外へ出て行って何とか生き残ろうとがんばっているのだ。近隣であるが故に摩擦が多いのは百も承知で、でもなんとか折り合いをつけ時に危険も省みずにお互いの利益共存の為に努力しているのだ。現在も将来も中国抜きにして外交も経済も一切が成り立つはずが無い。政治家はそこの事情を良く理解してサポートしなければならない存在だろうが、当初から投げやりで突き放した放言をするのは問題であろう。時にくやしくても何とか中庸線を見つけ渋々でもソフトランディングをさせるのが政治家だ。
外交は駆引きだ、押す一方では解決はできない、部分部分で引く事も必要だ。我々日本には尖閣諸島だとかガス田だとかもっと外交交渉に重要な課題がある。押す事も必要ではあるが、時として悔しいかも知れないが容認出来る範囲で引く事も国際社会での駆引きでは必要だ。靖国問題は、過去問題にされなかったが突然問題にしてきたと言う人も多いが、いいじゃないか、誤解を生む行為はやめようじゃないか。ここは引いておくべきだ。ここで引けばあとでどんどん難癖をつけてくるからここで押しとどめるべきだとの意見は、なんでもかんでもごっちゃにしているだけで視点がずれている。白と黒ときちんと区分けして中身を吟味して選択し対応すべきだ。
「ユートピア」
今春名古屋で開催された国際鍛造会議(写真)にホスト役として参加した。三年毎に世界主要国の鍛造協会が持ち回りで開催し、二日間の最新鍛造技術の発表会、そして海外からのゲストに対して提供される二日間の工場見学が組み込まれ、登録から工場見学の終了まで丸七日の長いスケジュールで開催された。今回参加者は海外から最多の中国と次いで多かったインドを含め六百七十余名を超えた盛大な会議となった。春四月、まさに時を合わせてくれたかの様に桜が満開となり、会場ウェスティンキャッスルホテルのまん前の名古屋城も見事な花化粧となり海外からの参加者を迎えてくれた。登録翌日の歓迎パーティーまでの一日は時同じく開催されていた名古屋万博の見学となった。パビリオン見学の招待券がトヨタ自動車から提供され、特に海外からの参加者からはロボットのダンスに絶賛の言葉を多数聴いたのである。
まさにこの万博はこれからの日本がどの方向へ進むべきか、どの方向に進もうとしているかの示唆に富んだ国際展覧会でもある。地球環境維持はその大きな主題である。
現在日本の最も深刻な問題と課題は、人口の減少とその対策である。確実に人口は半減し、高齢化社会になる事が判明している。ならば日本は産業革命が一段落し主要工業がアメリカに移動してしまい産業の空洞化をもたらしたイギリス等ヨーロッパ諸国の様になるのであろうか? 民間産業技術が日本等に流出してしまったアメリカの様になるのであろうか?日本の工業技術は中国等へ移動して、いずれ日本もヨーロッパ諸国の様になるのであろうか?日本は、か様な過去の技術移転パターンを踏襲するのであろうか? そんな事は絶対無い。今回の万博はそれがはっきりノーである事を示している。この失われた十年と揶揄された期間における、したたかな先端技術研究の成果がある意味でここに結集している。人口が半減し老人が増加する現実の中では人型ロボットの助けが日常生活で絶対に必要になる。それは介護と安全保護という実際上の必要性のみならず、パートナーとしての心の安らぎを得る事も考慮されているから(ロボット犬のアイボ君で証明されている)非常に高度な技術が必要となる。日本の最先端技術はそれをクリア出来る力がある。ロボットを商用化するには、高容量の電気バッテリーであるとか、しなやかな靭性に富んだ超軽量合金、人の皮膚の温かみを持つラバー樹脂、どこへでも間違い無く、安全で正確に移動できる衛星ナビゲーションシステム(GPS)、万一の危険回避能力(内蔵コンピューターの瞬間レスポンス)、これらをベースに実現を要求される高運動能力、所有者に対する忠誠と安全保護確保能力機能、感性機能等様々な困難な開発案件があるが、日本の工業界は一致団結してこれらを解決する力と実力がある。
万博の主要テーマである地球環境保護のためには、動力源としての内燃機関全廃の方向で進む必要がある。太陽エネルギーとか風力とか波とか地熱とかの自然から得られるクリーンなエネルギーの利用で石油等の化石燃料消費を無くすのである。そうすれば現在の国際紛争の主要原因のひとつである石油問題に日本は一切かかわる必要が無くなり、日本は永世中立を検討出来る様になる。高度な開発技術の成果は、世界各国への使用権受諾の見返りとしての莫大な還流マネーをもたらし、老人が困難無く生活できる社会保障体制を充実させる事ができる。また人型ロボットの普及は、発展途上国からの労働力移入の必要性も解消させ、治安の不安や紛争に巻き込まれる事も無くなる。一見北欧のフィンランドとかスウェーデンの様な国への移行を思わせるが、さらに付加的に環境自己循環還流型社会を目指すのである。たとえば完璧なリサイクルをしていた江戸時代の江戸の町の様に、必要な物を中だけで回し、外への依存を無くすのである。
国連の常任理事国入りに反対されているのなら、無理してなる事は無い。そのかわり相応の国連負担金の支払いに総額を落とし、あまったお金はこれら最先端技術開発研究の為にどんどん投資するべきだ。そして世界の中であるべき理想的国家としての姿を現実化させて、国連の中で範を垂れるのも一方の国際貢献であるはずである。外交下手の日本が国連の表舞台で無駄金使うより、もともと日本は技術開発に熱心なあきらめの悪い職人の国なのであるから、得意な分野でもっとお金を有効に使うべきなのである。
「チップは有効に」
広義な意味からすると、贈賄もチップの一種類であるのであろうが、日本には贈賄以外のチップの習慣が無い為、日本人は海外へ行った際戸惑う事が多いのであるが、場合によってはチップは大きな有効性があるのを忘れてはならない。
多くの発展途上国では空港到着後の預けた荷物受け取り場所(いわゆるバッゲージクレイム)でトロリーを持った赤帽が待機している。もちろんチップ期待だ。一人一ドルのチップとして十人の荷物運搬で千円、五十人で五千円、五千円は発展途上国の労働者の一ヶ月の賃金にも相当する所もあるから大きな稼ぎだ。(もちろんあっちこっちで上前をはねられるのだが)空港の彼らは有効に使おう。大概はその後の税関吏によるX線検査を大幅に省略してくれたりバイパスして完璧に省略してくれたりする。面倒な手荷物が入っている場合は百円のチップで大助かり。出国時のチェックイン前の預け入れ荷物のX線安全検査、長蛇の行列の場合が多い。これも彼らに頼むとX線装置の直前で横はいりしてくれてチェックインカウンターまで直行だ。
自分でやればタダなどとケチな事は考えずにチップは気前良く有効に使おう。
「メキシコ」
国際社会での公用語としての英語の地位は確定している。一時だいぶフランスが抵抗したが、力の関係から仕方がない。日本が鎖国という外界へのチャレンジの無い時代をのんびりと過ごしていた期間にイギリスは大海へ乗り出し世界各国を植民地支配し、英語圏を広げたものだから、強制的か、半ば必然的に英語を理解する人が増えたのも仕方が無い。そしてアメリカが英語になったのが決定的となった。
ひるがえって、中米と南米諸国はどうしてもスペイン語である。(ブラジルはポルトガル語)。
久しぶりでメキシコを訪問したが、スペイン語のほとんどわからない弊員としては誠に勝手が悪いのである。
先住民であるインディオは多くの石造りの建造物でも判る通り高度の文明技術を持っていたにも関わらず、文字を持たなかった。それが自国言語消滅の要因となった。16世紀、インディオ達の長い平安の時代に暴力的に終止符を打つべくしてやってきたスペイン人の強制的なスペイン語施策により、自国語は完全に消滅した。
良く言われる様に、中国では標準語とされる北京語に対し、広東語を代表とする各地の言葉が中央に対抗して話されている(大阪の人が標準語を東京弁と言うが如く)。ただ、使用する文字は、漢民族の地域では漢字であり、これば中国広しといえど、どこでも通用する。
漢字は多数の華人と共にそれを輸入した日本を始めとする多くの国で使用されている意味がほぼ同じな便利な表意文字である。残念ながら、過去漢字を使用していた実績のある韓国やベトナムは諸般の事情から独自の文字を使用するか、アルファベットになってしまった。
中国と肩を並べ多くの人口を抱えるインドでは、中国と同じ様に地域ごとに言語は違うが、インドの場合文字も違う為、たとえばインドの紙幣には各地の文字が印刷されている。
タイではタイ独自の文字がある。ミャンマーやパキスタンなども同じだ。インドネシアやマレーシアでは独自の文字があったのであろうが、アルファベットになってしまった。アジアの各国は従来の文字を使い続けるか、あるいはアルファベットを代用するかになったのであるが、話し言葉自体は依然各国独自の地元言語である。何故ならば、自国の文字を持っていたからである。イギリスに長期支配されたインドでは、ビジネスの世界ではなかば公然と外来語である英語が話されるが、外国人を交えた商談で都合が悪くなると突然インド人同士でヒンズー語をしゃべり始めたりして辟易するのである。
メキシコでは現地言葉は残らなかった。公用語はスペイン語である。中米・南米諸国でもほとんどの国が公用語はスペイン語である。文字を持たなかった人たちの帰結であった。怒涛の如く押し寄せた暴力的植民地支配の下で、文字を持たなかった人々は以降の長い過程の中で独自のオリジナル言語を失ってしまったのである。
「インド・ジーンズ」
インドでも徐々にジーンズが一般的になって来た。過去ベトナムでもそうだったが、経済事情が好転するにつれて、男も女もジーンズを着用し始める。安いのと、頑丈なのと、西欧文明的な粋な感じがするのが浸透する事情だろう。
インドでも女性のひらひらしたサリーや、男性の普通のズボンからジーンズへの移行が徐々に浸透しはじめてきた。やはりかっこ良く見える。ただ、大きな問題がある。それは多くの人が吊るしの標準サイズのジーンズをはくことが出来ない事だ。なぜあの様に太ってしまうのであろうか? 最近スリムなボディーに対して大分志向が高まった様だが、大変な事と思う。
インド国内線の昔からの老舗であるインディアンエアーは、国営が故との事だが、キャビンアテンダントはかなり年の入った太めの女性で、これがサリーをまとっている。腹部からお肉がはみ出している。サリーの特徴だ。飛行機にはペイロードという言葉がある。昔沖縄の離島を結んでいた南西航空(日本航空グループとなった)は、搭乗者全員の体重まで計測して離着陸に差し支えないぎりぎりの有償運搬貨物を積んで飛んだのであるが、いかにしてもインディアンエアーのキャビンアテンダントは航空燃料消費の無駄に見えて仕方が無い。ちなみに評判の良い後発民間のジェットエアー社ではキャビンアテンダントは若いスリムな女性・男性に限られているのである。
「タイ航空事情」
最近タイのドンムアン空港が面白い。老舗のタイ国際航空に加え、バンコック航空、エアープーケット、タイエアーアジア、PBエアー、NOKエアー等多数の航空会社が参入している。NOKの、機首を鳥のくちばしに塗装した飛行機はふざけているが笑える。新規参入組みの機材は大方が中古機と見れる。古いB-747、日本にはないB-757、ロッキードトライスター、日本製のターボ機YS-11もある。先日はタイ空軍のダグラスDC-3型機が離陸するのを見て感激した。昔のプロペラ機、地上でおしりがついて上を向いている飛行機である。
タイ国際航空は、バンコックからインド主要5都市全部に就航している。デリー・ムンバイ・コルカタ・チェンナイ・バンガロールである。タクシン首相は改選で圧勝し支持を堅固にした。首相のインドへの取り組みは最近富みに力を増しているが、飛行ルートの拡充もその証左と見て間違いない。それに引き換え日本航空は成田-デリーの直行便が週三便と使い勝手が悪い。全日空はかなり以前に運行を停止したままだ。
「シンガポール」
弊社は機械メーカーであるので、金融とか電気・電子産業の実情には詳しくない。機械産業の販売促進の一手段である見本市であるが、従来シンガポールの展示会は東南アジア・南アジア地区の中心地的ハブとしての役割を担って来たと思うが昨今状況が変化しつつある感じがする。タイ・インドネシア・ベトナムやインドが育って来てしまい、個々でそれなりの展示会ビジネスを発展しつつある。機械の需要はシンガポールにはそれほど無く、それらの周辺国がメインだ。機械産業の情報基地としてのシンガポールの地位は確実に低下しつつある感じがする。過去シンガポールの発展に寄与した電子産業もインド中国等へ移転しつつあるはずだ。シンガポールとしては将来の舵取りがむづかしくなりつつあるのではないかと思った。
「八月十五日」
在中国日系企業からの注文納期をせっつかれている。「なーに、小泉首相が八月十五日に靖国神社に参拝すれば、中国での予定は全部延期ですよ!」との返答は不謹慎だったろうか?
インド・デリーでは七月出張時、四十五度以上の気温だった。今年の日本も暑くなりそうだ。景気も是非暑く!ご健闘をお祈りします。