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世相

平成15年 正月

  • 2003年01月

失われていない十年
  ノーベル賞のダブル受賞が、日本の、この十年を越える地道な最先端基礎技術の研究成果を如実に表してくれた。あぶく銭を扱っていた連中の、文字通りあぶくと消えたお金のお陰で日本の経済は依然混迷しているが、科学・工業の最先端研究の世界ではこの十年は決して失われた十年ではない。むしろ明るい未来を開拓する為の、じっと耐える地道な十年であったと言っても過言ではないだろう。新技術の実用化装置の開発では日本は世界の最先端を走っていると言っても過言ではない。このまま突っ走れば日本は大バケする可能性もある。人型ロボット・電気自動車の実用化研究は世界のトップレベルだ。GPS(いわゆるカーナビ)の装着率は日本がダントツなのではないだろうか。携帯電話にもナビゲーションシステムが装着してきている。最近の高級車では他車と接近すると近づき過ぎの警告を出してくれる。これらの技術開発の相乗効果は世界をガラリと変える可能性が十分ある。高速道路に入った後の自動運転システムはかなり早期に実用化できるだろう。子供の頃白黒テレビで見た鉄腕アトムの漫画でやっていた、あれだ。運転の腕を試したくて自動運転装置を解除すると即禁止の警告が出る。希望の出口まで自動運転されるから、脇見もできるし、昼寝もできれば食事もできる。速度違反もありえない。高速道路上の悲惨な交通事故は皆無となり、もちろん事故渋滞も、見物渋滞も無くなる。
  盲導犬は多くの手間暇かけて育成する必要があり、絶対数が足りないが、これも早晩ナビゲーションロボットにとって替わられる可能性がある。自宅の介護ロボットが外にでれば済む事だ。路上のインフラの整備が整えば極めて現実化できる可能性がある。健常者であっても、ロボットは自分の身体に対するガードマンとして使う事もできれば、不審者の侵入や火災発見の為に夜中中敷地内を巡回させる事も出来るといったわけだ。
  トヨタとホンダが電気自動車をお国に納めた。最終ターゲットは勿論ソーラーバッテリーカーである事に間違いはない。何十年か先には日本の石油の輸入は激減するか皆無となり、石油中心の世界戦略地図から日本は離脱する事になる。
  これら新技術を実現化する為には、あらゆる分野での更なる技術開発が山積み状態で待ち受けている。弊社がここ数年取り組んでいるマグネシウム材料も重要な課題だ。アルミの2/3の重さのマグネはロボットや自動車にとって必要不可欠な材料だが、強度・腐食・摩耗の問題や、加工技術の開発等実用化への課題が沢山ある。作る為の道路に国家予算を使うのと、これら新技術開発に使うのとどっちがいいか・・・

危機・甘え・覚悟
  そうは言っても現実の日本国内の経済の低迷は、製造業にとって危機的状態である事には変わりがない。昨年は多くの技術力のある老舗工作機械メーカーがいくつも倒産した。現状に多くの変化はない。基本的に日本ではもう物はそんなにいらないから物を作る為の設備は必要ないし、物も日本で作るのと同じレベルの物が中国等から安く入ってくるので、ますます日本で物を作る必要性が無くなっているわけだ。一回の製造ロット数は一万を越えると賃金が安い中国での製造を検討し、中国側も、おいでおいでをする。利潤の上がる仕事は二十四時間働いてもやる国だから少品種多量生産には向いている。反対に割の合わない仕事はやらない。そもそも会社というのは自分のお金を膨らませる目的で設立するわけだから世界的に見ればそれが常識で、あきらめの悪い日本の企業は極めて特殊なケースだ。とは言っても長年の職人根性で成長した日本の製造業は、前述した近未来の大バケする日本にとっては必要不可欠で、金銭度外視でへたばりつつもやるこの中小製造業をなんとしても生かさなければならない。不良率ゼロ・超多品種少量・工程削減・秘密特殊技術・新分野への展開、危機を打開する為の宿題は山積みであり、昼夜を問わず前進しなければならない。戦後の焼け野ガ原から立ち上がったファイトと覚悟が必要だ。もちろん土日返上、朝星夜星。リストラ中で社員が頑張って働いている平日に、のんびり懇親ゴルフをやっている甘ったれ社長の会社は早晩消失するのは間違いない。危機を危機として正確に捉えていない。そんな社長に限って政府の施策を大批判だ。批判の先が違うのではないか。甘えるばかりで覚悟が無い。

ビジネスエリア
  確か小学校の頃、東海道線(勿論在来線)にクリーム色の特急こだまがビジネス特急という売り文句でさっそうと登場した。東京・大阪を日帰り往復で仕事がこなせるといったわけだ。それでも多分片道四~五時間かかったはずだ。
  四~五時間と言うと、現在飛行機で大方の中国主要都市はカバー出来、フィリピンからベトナムあたりまでもカバー出来る、もう一時間足せばジャカルタ・シンガポール・マレーシア・バンコクが範囲にはいる。成田と言う、利用者の便を無視した間抜けた所にある空港まで要する時間を考慮から外せば、これら地域は昔の国内出張をするのと大差ない位置に存在する。それなりの自己のビジネスエリアとして考えるべきである。幸いこれらの国は過去の日本と同じく都市と地方の格差が大きく、都市部では一見近代的に見えるようであっても地方ではまだまだインフラが不十分であるし、物も十分ではない。需要が沢山ある。設備投資は金融危機後の停滞から完全に復帰した。だから中小企業も商圏をどんどん外に拡大すべきだ。工場も移していい。日本は設計部隊だけ残せばいいだろう。徳川三百年の間に鎖国により世界に稀な独特の文化を築いた日本も、その前は大航海時代でアジア各地に日本人町が出来、活発な経済交流を行っていた。そもそも日本民族にはボルネオあたりから島伝いに北上してきた海洋民族の血が受け継がれているから血筋はいい。やる気のある人は発展途上の地域に身を投じるのも面白い生き方だ。
  先日弊社機械をバンコックで据え付ける際に呼んだ重量物据付業者の親方は六十過ぎの日本人だった。ここ十年こちらでやっているそうだ。若いタイ人を十人ほど手先に使いてきぱきと機械を据え付けて組み立ててくれた。日本だったら交通整理のガードマンがいいとこか、下手をしたら地下道のホームレスの年齢だ。日本でリストラの対象に怯え、将来に確たる希望が持てず愚痴たらたらの不健康な生活より余程健康的だと思った。バンコックでは給料は少ないが生活費も安いから心配ない。きっと仕事が終わってアパートに帰ると、何十も歳の違った若いタイ人の彼女が夕食の準備をして待っててくれるのであろう!と、ふとその情景が目に浮かんだ次第です。

色めがね
  昨年の海外出張日数もここ数年来と同じく百二十日を越え、インド・タイ・インドネシア・シンガポール・マレーシア・ベトナム・中国・韓国とアジア地区中心に展示会や商談・機械据付立会い等で駆け回って来た。製造業であるから現場重視である必要があり、可能な限り自分の目で見て確かめている。だから完全に無視しているわけではないが、他人の目で見た結果の講演会はあまり積極的に参加していない。別の人という一つのフィルターがはいる事への危険がある。聞くと見るとは大違いの例えもあり、やはり自分の生業の責任は自分で取る事にしている。ただ色々な色の色めがねをかけて事象を見る事も心がけている。赤い字は赤色の眼鏡をかければ消えるから注意が必要だ。
  参謀がいくら優秀でも兵隊が役立たずであれば戦争は勝てないが、参謀がアホでも兵隊がしっかりしていれば戦いは勝てる可能性がある。やはり現場重視だ。後方で宴会を開いていては勝てない。本年一年のご健闘をお祈りします。

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