世相
2022 正月
- 2022年01月
世相日本世界感じるままに 榎本機工㈱ 社長 榎本良夫
「大谷翔平選手」
プロ野球にさしたる興味があるわけでは無いが、今アメリカのプロ野球界で活躍している大谷選手の活躍はすごい。ストイックな顔つきのイチロー選手や、ゴジラ松井と比べてあどけなさがまだ残る顔つきはまだ可愛く、その笑顔には誰もが吸い寄せられ好感度抜群だ。肘の手術をする時の選択肢は2つあったそうだ。
選択肢1:手術せず対処療法で現役活動をする。しかし投手としての速球の向上は見込めず、現状維持でそれなりの選手生活を終える。それでもそれなりの選手生活はできるはず。
選択肢2:手術する。投手として、打者としてより一層のスキルアップが可能になるはずだが、手術のリスクはもちろんある。
大谷選手は手術の選択肢2を選ぶ。より速い球を投げる、より打率を上げるという、選手として当然存在する前向きであるべき選択が無くなる事はつまらない。現状維持ではおもしろくない。可能性の芽を摘んでしまうのは面白く無いし楽しくも無い。小学校や中学の野球選手時代さしたる飛び抜けた技量もなかった大谷選手を昨シーズンの結果の様に大きく引っ張ってきたものは、前向きな努力でしか無かったはずだ。可愛い顔の裏にその強い闘志がある。オリンピック選手にしろ、スポーツ界のトップに居る選手達は凡人にはとうていマネの出来ない日々の努力をしている。私も闘志はそこそこあるが、日々の努力365日欠かさない努力は無理だ。だからトップアスリートは心から尊敬する。大谷選手にしろ、オリンピックの金メダリストにしろ、この様な若い力がまだ日本に残っている事はとても心強い。産業界でも見習いたい。
「ストローがストローになる日」
ストローは英語でStraw、麦わらである。茎の部分は空洞で、乾燥すればまっすぐなチューブになるので、ドリンクを飲む際の道具として使われ、麦わらがその名称になったのがストローという道具の言葉の由来だ。小学校低学年の頃本当の麦わらのストローがあった事を覚えている。自然に育つ麦だからもちろんストローの直径はばらばらで、それでもほぼ近いサイズを選んで束ねてあった。不思議と壁に穴などは開いていなかったのだろうが空気を吸い込む事は無かった。そもそもストローを使う事さえ稀で、バヤリースオレンジ(当時オレンジジュースと言うとこれだけ)や三ツ矢サイダーの長い瓶のドリンクを飲む際に使った程度だったかと記憶している。コーラが出てくるのはその少し先だった。いくばくもしない内にビニール製のストローが出て来た。色々な色が螺旋でデザインされていたが、その後一挙に麦わらのストローは姿を消して行くのである。一時ロウを含ませた紙を巻いたストローも出回った時があったが、水気を含むとすぐふにゃふにゃになってしまった事を覚えている。
そして現在、樹脂ゴミによる環境汚染を防止する為、多くの飲食業界でストローが廃止されつつある。あるいは環境負荷が軽い紙製などの代替品が復活している。いずれ本当の麦わらのストローもまた復活するのであろう。ストローがストローに戻る日も近い。
「終わりの無い新型コロナ禍」
人から人へうつるにつれ変異し感染力と毒性が強くなっているらしいが、ウイルスも種の起源なみに生き残られる物が生き残ろうとし、残るすべを獲得した変異株がまだまだそこら中にうようよしているという事なのであろう。紀元前1350年にはすでに記録のある天然痘は、種痘という人類初のワクチン接種により、1980年頃に3300年以上にわたる蔓延の歴史に幕を閉じた。しかしながら野生動物などには類似の菌がまだいるらしい。軍事目的で天然痘の菌を保有している国もあって、天然痘のウイルスが地球上から完全に消滅しているという事では無いらしい。かつてオウム真理教もこの手の細菌兵器開発をしていた。
となると、このCOVIT19と名付けられた新型コロナも消滅する事なく今後長期に渡り我々の回りでうろうろして居る事になるのであろう。そして種痘と同じく我々地球に存在している人類のほとんどがワクチンを接種するとか、感染して集団免疫を獲得するしか対抗策は無いという事になるのであろう。インドでは多くの人達が実際に罹患した結果抗体を持ち、免疫を獲得したらしいが、その陰で老人を中心にたくさんの犠牲者が出たという事だ。いやではあるが、インフルエンザの様に、ずーっと付き合わざるを得ない様だ。一体どこから出て来たやつなのか、本当に悩ましい。
「リサイクル社会」
お茶と湯飲みではストローの出番は無い。古来日本ではストローの存在は無かったのではないかと思う。メソポタミア(現在のイラクあたり)では紀元前3000年頃、つまり今から5000年以上前、ビールが造られていた様で、濁り酒に近いビールの底に溜まった滓(おり)を避けて飲む為に葦の茎を利用したストローが使われていたらしい。麦から作ったビールが麦わらのストローで無いのが残念だが、多分麦わらも使っていたのでは無いかと想像したい。日本のストローの歴史は明治維新で西洋文化が入って来てからだろうが、もしかすると戦国時代にポルトガルの宣教師達が持ち込んでいたかもしれない。
飲むときの道具のストローはいずれにしても廃物利用だった。土から育てた植物の廃物を上手く利用して使い終わった後は焼いて灰にしてまた土に戻し、完璧なリサイクルを築いていた。
幅広のストローハット(麦わら帽子)も廃物利用。強い夏の日差しを避けるには軽くて使い勝手が良く、1シーズン使えばまた土に返した。
稲わらを使った蓑(みの)傘、は雨具や防寒具として使われてきたリサイクル用品で、田舎では大正時代の頃まで使われていた。ドラマ「おしん」でも頻繁に出てくる。わらじや藁葺き屋根も同じ。ゴムや樹脂製品が出てくる前はいずれも自然が産出した物を上手にリサイクルして利用していた。
稲わらは米を作っているからこそ出る廃棄物なので、山間部ではその廃棄物さえ大量に手に入らない。したがって屋根は原野に生えるススキを使った茅葺きにならざるを得なかった。同名の有名な企業もあるが、カヤバは萱場(茅場)と書き、苗字にもなっているが、このススキを取る為に大事に残していたススキ野(札幌にも本当のススキ野があったのだろうか?)である。毎年夏に生える茅を保管し、何年かで十分な量が貯まったら屋根を葺き替える。今でも岐阜の白川郷や、富山の五箇山に昔と同じ様に残っているのは有名だ。
青森県の三内丸山遺跡には縄文人が住んだとされる住居の復元が並んでいるが、これら古代の復元住居と今に残る茅葺きの建物と近似性があると個人的に思っている。多分縄文時代から自然の植物を上手く利用して生活していた日本人の生活史が今にも残っているのだと思える。そう、昔はSDGsのDの発展はどうか別にして持続可能な生活は営まれていた。
「足利学校、济宁、論語と算盤」
栃木県太田市や群馬県の前橋や桐生は仕事柄出向く事が多く、近くの足利学校を横目にして日帰り出張していた。日本で一番古い学校と言われ、一度訪問してみたいとは思っていたが、このコロナ禍で時間の余裕が出来、昨秋訪れることが出来た。
創設は奈良時代とも、平安時代とも諸説があるが、歴史に残るのは鎌倉時代からで、関東管領の上杉氏が1439年に再興整備した。583年前の事となる。明治時代にその役割を終えたが近代化の波の余波だったのだろう。教えていたのは孔子の儒教・論語で、訪れたその日には足利市の子供達による論語カルタ大会が開かれていた。時まさに渋沢栄一の「論語と算盤」。渋沢栄一と足利学校の貼附が個人的に意図せず合わさったのである。丁度秋真っ盛りのモミジが真っ赤に色づいている時で、校内のモミジの1木に、中国济宁(ジーニン、簡略しない漢字は濟寧)市と足利市の友好姉妹都市の記念植樹である但し書きがあってびっくりした。济宁市の工業団地には弊社の最新全自動プレス装置が稼働しているからで、現に济宁には私は何度も足を運んでいる。
孔子の生まれた現在の山東省曲阜(ここには新幹線である高鉄の曲阜駅がある)は济宁市の中にあり、儒教と論語が結ぶ縁で足利市と济宁市が姉妹都市になっていてもおかしくはない。高鉄の曲阜駅は私も何度も利用している。駅の近くには孔子の大きな立像がたっている。毛沢東が行なった文化大革命の時には反孔子、反儒教で徹底的に弾圧されたが、最近「孔子学院」などで、その思想がまた都合良く再活用されている様だ。
まもなく一万円札の肖像画が福沢諭吉から渋沢栄一になるに際して、NHKの大河ドラマも昨年は渋沢栄一の生涯を描いた物だった。孫の孫にあたる渋沢健氏のWEB講演会も聞く機会があり、日々論語にはうとかった私も、多少著書などで勉強する機会を得ることができた。「論語と算盤」は簡単に要して「商売と倫理(人としての正しい行ない)」という事だろう。近江商人の三方良し(買い手良し、売り手良し、世間良し)とも同根と思える。
自分が生きる為に、国や世界を良くする為にがんばってお金は稼げ、ただし人として生きる道は外さない様に。という事だろう。
時まさに「会社は誰の物」という問いかけのもとに、大きくかけ離れた所得格差の問題が提起され、投資による莫大な不労所得に批判が集中していて、古い日本式の会社運営が注目されている。神戸大学の加護野特命教授はいわゆる物言う株主に対し「あれは株主ではなく投資家だ」と一刀両断に切り捨てている。企業の成長と将来は一切考えて居ない、少し前はハゲタカファンドと呼ばれていた連中で、彼らこそ論語と算盤を両立させなければならないだろう。
玄孫の渋沢健氏いわく、渋沢栄一は財産は残してくれなかったが、論語と算盤を残してくれた。自身が起業する際に見もしなかった論語と算盤を徹底的に再読したところそのほとんどが今に当てはまる事が判って起業の導きになった。著書に渋沢栄一は子供が多すぎて財産はそれらに全部使い果たしたと笑って書いてあるが、実際判っているだけでも20人以上子供が存在していたという事だ。本妻は一度死別、その時の子と後でもらった後妻との子の合計が7人、あとはいわゆる愛人との子供で、今の今なら週刊誌に徹底的にスクープされて叩かれているはずで、昔は良かったのかなとあらぬ思いを馳せてしまう。あれだけ会社を創出した渋沢栄一は女性をも虜にしてしまう程魅力もあったのだろう。しかし現在の政治家や芸能人は大変気の毒だ。プライバシーもへったくりも無い。
イスラム教は一夫多妻を認めているが、経済力があるのであれば多数養ってもそれはそれで社会貢献出来て良しとするのだろう。寿命が短かった昔は日本でも、兄が他界したあと兄嫁を弟が貰うなどどこでもあったらしい。昔は困っている者を養うに制限は無かったのだろう。回りもそれとなく理解したのだろう。
「日の出山荘」
アメリカのレーガン元大統領が日本を訪問して、東京都下の日の出町にあった中曽根元首相の別荘「日の出山荘」で日米首脳会談を行なったのは昭和58年(1983年)であるから、もうすでに40年近く前の話になってしまい、平成生まれの若い人達には記憶のかけらも無い。中曽根元首相もコロナ禍直前の2019年11月に101歳という天寿を全うして他界され、日の出山荘近くにある墓園で眠っている。故郷の高崎では無いので、よほど日の出山荘の思い出が強かったのだろう。
日の出山荘は地元日の出町に寄贈され、中曽根元首相が現役であった頃からそこを管理してお世話していた老夫婦が現在でも日の出町に委託されて管理をしている。この管理人は当時弊社のプレスの溶接部品を作っていただいていた経緯があり、このコロナ禍の休日にふと思いついて日の出山荘を訪問してみた。
母屋の茅葺き屋根は最近葺き替えられたが、茅が手に入らずに葦にしたと言う。中曽根元首相がこの土地と古い農家の家を購入したおもしろいいきさつも話してくれたが、管理人が亡くなったらそれも残らないだろうから、日の出町はなぜ日の出町だったのか記録に残しておいた方が良いと思った。江戸時代から営農していた農家が継続を断念して引き払った後、屋根から空が見える程廃屋になっていた母屋を、大変な労苦で住める様に修理したという事だ。山の中でよくも営農していたものだと思ったが、ここ日の出町やその奥の青梅市、五日市などは東京都ながら昔から林業が盛んで、江戸時代に江戸の町で必要とした材木を、恐らく多摩川を利用してここら辺からも供給していたのだろうと推測でき、それなりに集落が存在していたのだろう。日の出町では当時(40年前頃?)棺桶も作っていたと聞いた。山荘のすぐ近くでスモークチーズを作っている会社があるが、スモークのチップも林業の名残と思う。
紅葉も終わりの秋の日に、のんびりと山荘を散策し、レーガン元大統領が来たときはすごかったのだろうと想像をかき立てた。中曽根元首相が泳いだプールもまだそのまま残っている。
「中曽根元首相、2021年総選挙、脱炭素」
日の出山荘でふと思い出したが、中曽根元首相がなぜか他党の若い細野豪志議員に政治家の本意を禅譲していたと何かの本で読んだ記憶がある。昨年の衆議院議員選挙の結果は良くも悪くも日本人がまだ江戸時代の名残を引き継いでいる結果ではないかと思った。ああ言えばこう言うと批判ばかりの野党への評価は悪かったが、かといって自民党にはお灸をすえたいという有権者の投票結果が日本維新の好成績になったはずだ。
脱炭素が叫ばれて、各国とも到達目標値を、大風呂敷を広げて発表しているが、現実はそう簡単では無く、実際に付随的な大きな問題も出て来ていずれ修正の必要が出てくるとみている。まず現実的に電力事情が危機的に悪くなってしまった。
自動車からの二酸化炭素排出量を減らすにはEV化と共に軽量化も大きな決め手になり、アルミニウムの多用もその一つの解決策なのだが、アルミニウムを作るには多量の電力が必要で、その電力を石炭火力発電でまかなうなら逆に総排出二酸化炭素量は多くなってしまう様だ。全体を高みから鳥瞰してバランスをとらないと解決策にならず、この辺りを豊田章男社長は強く訴えている。しかし、SDGsの動向と到達点目標は中長期的には変わらない。世界が変わって行き、もう元には戻らない事は確実な事実だ。
昨年はコロナ禍の為海外に出る事がかなわず、世界の世相も垣間見る事が出来なかったが、各国の契約社員達からは情報は入ってきている。インドの経済動向は非常に活発に動いている。渋沢健氏は、これからは日本の技術と海外の若い人達を掛け合わせた Made with Japanを提唱しているが、インドのモディ首相の提唱する Make in India は Made with Japanと合体して世界の産業界に貢献して行くのかも知れない。
江戸時代の余韻で日本の国政はひととき安定しているかに見えるが、世界はそうでも無い。
安定感を欠いているイギリス、フランス、ドイツなどのEU諸国。シリア、イランなどの中東情勢、トルコの経済事情、ロシアとウクライナやベラルーシ、中国、韓国、そしてますます泥沼化するミャンマー情勢など実際は緊張の度合いは海外では高く、これらの動静は注意深く見守って行く必要がある。
本年も皆様のご多幸と、コロナの早い終息を祈念します。